交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

国道313号 高梁市川上町三沢の旧道 (2021. 6. 23.)

中国山地を縦断し,山陽と山陰を結ぶ国道313号.道路改良によって打ち棄てられ,徐々に自然に還りゆく二車線道路の廃道をレポートする.

目次

背景

この日私は,広島県福山市鶴ヶ橋の探索を終え,次の目的地である岡山県高梁市の宮下橋 (次回レポート予定) に向かっていた.国道313号を進み,高梁市川上町に入ってまもなく宮下橋という所で,突如左への分岐が現れた.そこにこんなものを見て,急停止した.

年季の入った通行止めの看板と荒れた道路.廃止された旧道に違いない.それも,以前レポートした国道303号水坂トンネル~寒風トンネルの旧道と同じく,黄色のセンターラインを有する二車線の廃道という希有な存在である.探索しない手はなかった.

第一区間

旧道は上の「通行止め」の看板からしばらく進んだ後,いったん現道に合流し,その後約30mで再び左に分岐する.このうち,本節では「通行止め」の看板からいったん現道に合流するまでを,第一区間としてレポートする.二度目の分岐から先については第二区間として次節でレポートする.

 

場所はここ.

執筆時点ではGoogleマップにも描かれているが,旧道は現道の西側 (三沢川と反対側) にある.なお,この区間の付け替えは執筆時点の地理院地図には反映されておらず,今回探索した旧道だけが描かれている.

 

「通行止め」の看板の前に車を停め,歩いて探索を開始した.

アスファルトの隙間から草花が顔を出していた.ハルジオンと思われる.可憐な見た目とは裏腹に,恐ろしい生命力である.

 

先へ進む.

路盤はしっかりしているが,堆積物の多さはいかにも廃道らしい.

 

まもなく第一区間の終端となる.地形に沿った急カーブの手前には,

現役時代そのままの減速帯.これを過ぎると

Aバリケードの簡易な封鎖を経て現道に突き当たる.ただ,現道とは少々高度差があるので,

このように,旧道の終わりは現道に切り取られるような形で訪れた.

 

振り返ると,

徐々に荒れてゆく,過渡期のような廃道風景が広がっていた.

 

この区間の道路付け替えの理由は,言うまでもなく線形改良に違いない.地形に沿った急カーブがある上,この写真で現道との間に高度差があることからわかるように,現役時代はカーブの内側車線は下り坂となっていた.減速帯が設けられていたことからも,事故やヒヤリハットの絶えない場所だったものと思われる.このカーブを緩和するように,川の一部を埋め立てて現道が建設されている.

 

また,付け替えの時期については不詳だが,2014年1月時点のストリートビューを見ると,

現役時代の旧道と,建設中の現道の両方が確認できる.一方,2018年4月のストリートビューを見ると,

既に付け替えが完了している.従って,この区間が廃道となったのは2014年~2018年の間であることは間違いない.2014年1月時点で路盤は完成しているし,部分的には舗装やガードレールの設置も済んでいるから,付け替え・旧道の廃止は2014年内かもしれない.

第二区間

第一区間のおよそ30m先から始まる第二区間は,もう少し早い時期に廃止されたらしく,その分熟成が進んでいた.

 

場所はここ.

地図には描かれていないが,航空写真には現道の南側に減速帯のある旧道が写っている.

 

現道から第二区間を望む.

ほんのわずかな線形改良の結果,左側の旧道は無惨に打ち棄てられている.

 

第一区間でも見たハルジオンと思しき花が,ここでは驚くほどの数で群生していた.

ハルジオンは別名貧乏草とも呼ばれるが,これは貧乏な家や荒れ地でも生えてくるほど強い繁殖力を持つためという説があるそうだ.人間が造り,そして人間が棄てたアスファルトの道路でも,美しく,そしてたくましく花を咲かせていた.

 

そしてまもなくすると,

現道に踏みつけられるようにして,旧道は終わりを迎えた.

 

振り返ると,

黄色のセンターラインを有する二車線の幹線道路が自然に還りゆく,素晴らしい廃景が広がっていた.

 

なお,この第二区間が廃止された時期についても,ストリートビューからおおまかに推測できる.2011年3月時点のストリートビューでは,

旧道が現役である.一方,2013年12月のストリートビューでは,

既に付け替えが完了している.従って,旧道が廃止されたのは2011年~2013年の間であることは間違いない.

おわりに

中国山地を縦断し,陰陽を連絡する国道313号.その影でひっそりと眠る,廃道と化した旧道を探索した.わずかな線形改良で生じた旧道は現道の真横に残っており,それだけに打ち棄てられて自然に還りゆく様が鮮明だった.また,この旧道が廃止されたのは2011年~2013年 (第二区間) および2014年~2018年 (第一区間) と比較的最近であり,廃道としての歴史はまだまだ浅い.5年後,10年後,20年後にはどんな廃景が広がっているのだろう.距離は短いながら今後が楽しみな,いわば「期待の新人」の廃道だった.