交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

国道193号 大釜隧道 (2022. 6. 24.)

徳島県那賀町.現役国道上の豪快な素掘り隧道.

 

はじめに

国道193号は,瀬戸内海に面した香川県高松市から,四国中東部を縦断し,太平洋沿岸の徳島県海陽町に至る国道である.中間地点である徳島県美馬町を除いて,基本的に険しい山地を越える道であり,酷道と評される区間も多く残る.

 

大釜隧道は,国道193号起点 (高松) からおよそ90kmの徳島県那賀町の旧木沢村,釜ヶ谷川の渓流沿いに位置する隧道である.

場所: [33.8814526, 134.2841593] (世界測地系).

歴史

「木沢村史」1 によると,この付近の国道193号は,昭和30~40年代に森林開発公団林道として開かれた.まず昭和32年 (1957) から2ヶ年で,木沢村沢谷地区の開拓橋付近から上流5.647kmが幅員3.6~4.0mの車道として整備された.この区間に大釜隧道も含まれている (大釜隧道は台帳上は昭和36年 (1961) 竣工となっているが,実際はもう少し早かったようだ).この事業は大又地区に四国電力広野発電所の取水堰堤を設置することによる減水補償としての性格も有しており,四国電力側から約600万円が拠出されている.

 

次いで,行き止まりであった林道をさらに上流側に延長して「林道木沢神山線」とする工事が進められ,昭和42年 (1967) には土須峠を越える雲早隧道が開通,神山町内の既存の県道と接続した.昭和44年 (1969) に林道は公団から木沢村に払い下げられ,48年県道山川海南線に編入,50年に国道193号に昇格した.

雲早隧道.

 

雲早隧道の脇に建つ林道開通記念碑.

 

記念碑にも刻まれているように,この道路の開通は,村内の広大な森林から大型トラックで木材を搬出することを可能としただけでなく,木沢村から神山町と県道 (現在の国道439号) 経由で徳島市にアクセスする最短ルートを開き,また,四国東部を縦断するルート (=国道193号) をも形成した.

 

さらに,新緑や紅葉の美しい渓流へのアクセスも容易になった.道路に並行する釜ヶ谷川には大釜,小釜,大轟等の美しい滝が連なり,特に大釜隧道の脇に位置する大釜の滝は落差20m,滝壺は水深15mという大瀑布である.大正2年 (1913) 刊行の「徳島案内」2 にも名所として記載されている古くからの景勝地であるが,「木沢村史」1 によると,

大釜の滝は、昭和三十二年公団林道が開設されるまで、人の寄りつき難い難所であって、噂に聞く景観であったが、林道の開設と共にその全容は目のあたり鑑賞することができるようになった。

とのことである.

探訪

2022年6月24日,現地を訪ねた.車を借りた徳島市から色々な遺産をめぐりつつ神山町に入り,川又橋 (後日レポート予定) で鮎喰川を渡って国道193号に入った.前述の雲早隧道付近での休憩時間を含め,1時間弱で大釜隧道西口に着いた.

 

恐ろしいほど高く切り立った崖を穿つ大穴.豪快な光景に目を見張った.

 

正対.坑門を有さない素掘り隧道である.

 

内部.吹付けコンクリートも照明もなく,掘ったままの状態.こちらも豪快で美しい.

 

 

抜けて東口.こちらも坑門なし.

 

現役国道に吹付け等の改修が施されていない素掘り隧道が残っているのは稀である.かと言って整備状態が悪いということはない.漏水は多少あるものの,落石はきちんと片付けられている.これからも国道193号の名物隧道として活躍を続けてほしいと思う.

 

こちらは隧道脇の大釜の滝.時期が悪く木々に遮られてしまっている.遊歩道 (階段) をたどればもっと接近できたのであろうが,オフシーズンとはいえ狭い待避所にいつまでも駐車しておくのは気が引けたのでやめておいた.

参考文献

  1. 木沢村誌編纂委員会・編 (1976) "木沢村誌" pp. 970-973 / 1683,木沢村.
  2. 井上羽城・編 (1913) "徳島案内" p. 209,黒崎精寿堂ほか.