交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

(旧) 国道4号 青岩橋 (2023. 4. 1. / 2023. 12. 8.)

青森と岩手を繋ぐ,道路用のトレッスル橋.

 

はじめに

東京から一路北に向かう国道4号が,岩手県二戸町から県境を越えて青森県三戸町に入る地点の馬淵川.ここには両県を結ぶその名もずばりの「青岩大橋」が架かっている.昭和45年 (1970) 開通の橋だが,国道4号の長い歴史を考えると当然の如く,それより古い時代にも橋があった.昭和10年 (1935) 竣工の歴史的鋼橋,青岩橋である.

場所: 40.34500607682845, 141.27468414706524 (世界測地系).

 

「鉄の橋百選」1によると,700mほど上流に架けられていた先代の橋の落橋をきっかけに橋は現在の位置に移り,岩手県青森県が20年ごとに交代で木橋を架けてきた.そして昭和9年 (1934) から昭和10年 (1935) にかけて,内務省先代土木出張所の直轄工事として,初めての永久橋である青岩橋が架けられた.

 

本橋は9径間上路プレートガーダー橋であるが,特筆すべきは全ての橋脚がトレッスル構造であることだ.道路用のトレッスル橋は珍しく,しかもこれほど大きな規模のものは唯一無二である.昭和初期の永久橋で,鉄筋コンクリートではなくトレッスルの橋脚が用いられるのは,非常に高い橋脚が要求されるケースが多いが.「鉄の橋百選」1では,本橋の場合は洪水の際の水流を考慮した可能性を指摘している.

 

平成18年 (2006),歴史的重要性から土木学会選奨土木遺産に選ばれた 2 が,老朽化を理由として車両通行止,そして青岩大橋 (現道) に歩道が増設されてからは歩行者も通行禁止となってしまった.

第1次探訪 (2023. 4. 1.)

現地へは2度訪れた.一度目は2023年4月1日.岩手側のバリケード前で車を降りた.

見ての通り通行止め状態である.ガードレールが二重に置かれ,歩行者たりとも通さぬという強い意志を見て取れる.

 

左の親柱には「昭和三十六年十一月竣功」と補修年が刻まれているほか,選奨土木遺産レリーフも飾られている.右の親柱には「せいがんばし」.

 

木々の隙間から覗いてみると……おお,確かにトレッスル橋脚だ!

 

こちらには視点場は乏しそうなので,対岸に行こう.ガードレールを乗り越えて橋を渡る.

二車線だったはずの橋上は,歩行者用として使われていた時代に設置された鉄柵でかなり狭められている.

 

もともとあった高欄.おそらく親柱に記載された昭和36年 (1961) の改修で設置されたもの.そのまま残してあるのだが,これは信用ならんということで,新たな鉄柵が設けられたのであろう.まぁ歩行者用としては高さも不足しているので無理もない.でも,できれば再現という形で新しく設置してほしかったな.あの鉄柵では風情がない.

 

青岩橋から見る青岩大橋.あちらはもちろんコンクリート製の橋脚だ.

 

渡り切って振り返る.

岩手側と同様,二重のガードレールで通せんぼ.このまま放置では,せっかくの土木遺産が風化を待つのみである.

 

こちらの親柱は「青岩橋」「昭和三十六年十一月竣功」.

 

こちらの方が幾分視点場に恵まれているものの,それでもかなり近い位置からしか拝むことが難しい.

とりあえずトレッスル橋であることはわかるのだが….

 

上流側に離れてサイドビューを撮ろうとしたがこれが精いっぱいだった.橋の袂にあった廃ラブホの敷地に失礼して無理やり撮ったものである.

 

残すは下流側だが,川より少し高い位置に農地が広がっており,作業中の方がおられたので自粛した.そもそも逆光だったというのもある.下に降りる場所のアタリだけを付け,再訪を誓って現地を後にした.

 

車に乗り込もうとすると,地元の方が犬を連れて歩いてきた.見ていると,その方 (と犬) は何の躊躇もなくガードレールを乗り越えて,青岩橋を渡っていった.公式には通行止となっていても,地元住民の散歩コースとしてはまだまだ現役のようであった.

第2次探訪 (2023. 12. 8.)

その後再訪が叶ったのは8ヶ月後の去る12月8日であった.この日は初めから青森側で車を降りた.

相変わらずの通せんぼである.

 

路面からの景色は,前回から変わりないようだ.

 

この日は橋の左岸上流側から橋への接近を試みた.左岸上流の農地が無人だったので失礼させていただき,川への斜面が緩やかなところを見つけ,木につかまりながら無理やり降りた.そうして撮れたのが次の写真である.

青岩橋,昭和10年 (1935) 竣工,近代土木遺産Aランク 3土木学会選奨土木遺産 2.こういう景色が見たかった!

 

竣工約90年のトレッスル橋脚.工学的には老朽化しているのだろうが,今もどっしり桁を支え続ける立派な姿に息をのんだ.

 

プレートガーダーの桁裏詳細.

 

またあんなところに蜂の巣が….

 

最後に定番のアングルである青岩大橋からの景色も見に行った.歩道は青岩橋と反対側にしかついていないので,車が途切れるタイミングを見て車道を横断し,写真を撮った.

これもいい景色だが,橋の高さは伝わりにくい.やはり橋は下から見ないとな.

 

これにて満足して車に戻り,次の目的地に向かった.

 

それにしても,青岩橋の今後はどうなるのだろう.現道に歩道が設置されたからと言って,こちらを歩行者にも開放しないようにしてしまったのはあまりにももったいない.車も渡らず人も渡らずであればもはや廃橋で,朽ちるのを待つだけである.戦前の開通から長きにわたって地域交通を支え続け,権威ある土木学会にも認められた土木遺産,どうにか地域の「資産」として維持できないか.このままでは選奨土木遺産レリーフも泣いている.

参考文献

  1. 成瀬輝男・編 (1994) "鉄の橋百選-近代日本のランドマーク" pp. 202-203,東京堂出版
  2. 土木学会選奨土木遺産選考委員会 (2006) "青岩橋 | 土木学会 選奨土木遺産" 2023年12月23日閲覧.
  3. 土木学会土木史研究委員会・編 (2005) "日本の近代土木遺産―現存する重要な土木構造物2800選―" pp. 34-35,土木学会.