交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

大阪市の天満橋と寝屋川橋 (2021. 6. 28.)

「大阪八百八橋」と呼ばれるほど多数の橋を擁する大阪市.昭和初期に架けられた,2本の鋼ゲルバー橋を訪ねた.

目次

天満橋

片持ち (カンチレバー) の橋桁で別の橋桁 (吊り桁) を支える構造の橋は,ゲルバー橋と呼ばれる.

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本図は「老朽化したゲルバー形式橋梁の補修について」1 の図-3を引用している.長い吊桁を用いることで,トラス等の大がかりな構造を用いずとも大きな径間長を実現できることが利点のひとつであり,昭和初期頃に全国各地で架けられた. 

 

その中でも,日本三大ゲルバー橋と呼ばれる橋がある.東京都の言問橋,両国橋,そして今回レポートする,大阪市天満橋である.

 

京阪電車と地下鉄谷町線天満橋駅の北で一級河川の大川を跨ぐのが,駅名にもなっている天満橋.川沿いには遊歩道が設えてあり,観察は容易だった.まずは南西から.

天満橋昭和10年 (1935年) 竣工,近代土木遺産Bランク 2土木学会選奨土木遺産 3.「鳥が翼を広げたような形」と称される,緩やかな曲線を描く橋桁が美しい.側面に明瞭なゲルバーヒンジが見えるのも好ましい.

 

橋の下を潜って,

南東から.

本橋は現在,二層建て構造となっている.昭和45年 (1970年),交通上のボトルネックを解消するために橋の拡幅が検討されたが,大阪市中心部のこの地では用地の確保が困難であったため,本橋の上層に高架橋が増設された.元々本橋の中央には路面電車 (市電) が通っており,その荷重に耐え得るように設計された部分が,廃線後に高架橋を支えるようになったというわけだ 4

 

南東側の親柱.

親柱や灯具は改修・復元されたものと見られるが,良い雰囲気を保っている.流麗に崩した「天満橋」の銘板は当初のものかもしれない.その右側の翼壁にも親柱があり,

違う書体で「天満𣘺」と刻まれていた.なお写真は省略するが,他の3箇所の親柱の銘板は「天満橋」「てんまはし」「てんまはし」だった.

 

さて,橋を渡る.途中で左,つまり西を見ると,

さほど遠くない場所に扁平なアーチ橋が見える.あれは本橋と同じ第1次都市計画事業で誕生した,昭和9年 (1934年) 竣工の天神橋である 3.あちらはまだ訪問していないが,いずれレポートしたいと思う.

 

北側から.

大阪市の中でも多数のオフィスや商業施設が立ち並ぶ一帯に,優美なゲルバー桁が溶け込む良い景観だった.古い交通遺産を巡っていると,ついつい地方にばかり目を向けてしまうが,大都市にも素晴らしい景観は存在する.そんなことを実感した探索となった.

寝屋川橋

天満橋のすぐ東では,大阪府東部から寝屋川市大東市を通って大阪市にやってきた一級河川の寝屋川が,大川に合流する.その直前に架かるのが,川の名前を取った寝屋川橋である.まずは北東から.

寝屋川橋,昭和4年 (1929年) 竣工 5.スカイブルーで塗られた鋼プレートガーダー橋で,一部の支間がゲルバー構造となっている.

 

北東と北西の親柱.

堂々とした書体で「寝屋川橋」「ねやかわはし」と刻まれた銘板がはめ込まれている.昭和4年 (1929年) の竣工当初のものと思われるが,愚か者による落書きが嘆かわしい.残り2本の親柱についても同じ組み合わせだった.

 

高欄.

金属製で「ハ」の字を連ねたような意匠となっている.ハシの「ハ」か,あるいは大阪八百八橋の「八」か.どことなく10本アニメを思い起こさせる.金属製でやや新しそうに見えるので,竣工当初のものではないかもしれない.

 

本橋の東側には,川と道路を悠々と跨ぐ方丈ラーメンの歩道橋があった.そこから,寝屋川橋を見下ろすことができた.

本橋と寝屋川は斜角で交差している.煉瓦アーチならばねじりまんぽになっていたであろう.そして意外にも,写真右手側の一番広い径間はゲルバー桁ではなかった.川の形状のせいか橋脚の角度も一定ではないように見えるので,その関係かもしれない.

 

この日の探索はこれにて終了した.天満橋も寝屋川橋も,架設からおよそ90年を経た今も,重要なインフラとして現役で供用されている.しかしながら,ゲルバー橋はその最大の特徴であるゲルバーヒンジ部分が構造上の弱点となり,近年は各地で架替えが進んでいる.また京都市賀茂大橋のように,外観は保ちつつもゲルバー構造を解消した例もみられる.今回探索した二橋の老朽化の具合については定かではないが,今後の行く末が注目される.

参考文献

  1. 湊川裕介,田中達也 (2018) "老朽化したゲルバー形式橋梁の補修について" 平成30年度近畿地方整備局研究発表会論文集,一般部門(安全・安心)Ⅰ,No. 7,国土交通省近畿地方整備局,2021年8月25日閲覧.
  2. 土木学会土木史研究委員会・編 (2005) "日本の近代土木遺産―現存する重要な土木構造物2800選―" pp. 184-185,土木学会.
  3. 土木学会選奨土木遺産選考委員会 (2000) "大川・中之島の橋梁群(桜宮橋、天満橋、天神橋、大江橋、淀屋橋)" 2021年8月24日閲覧.
  4. 大阪市建設局道路部橋梁課 (2021) "大阪市:天満橋(てんまばし) (…>橋>橋の紹介)" 2021年8月25日閲覧.
  5. 大阪市建設局道路部橋梁課 (2016) "大阪市:寝屋川橋(ねやがわばし) (…>橋>橋の紹介)" 2021年8月25日閲覧.