交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

富山県道22号富山停車場線 桜橋 (2022. 3. 12.)

富山の都市部,自動車と路面電車が通る戦前製の鋼アーチ橋.

 

JR富山駅から約1km.現代的な高いビルが立ち並ぶ富山の市街地に架かる桜橋.登録有形文化財にもなった富山市を代表する土木遺産である.架橋の経緯等の詳細はのWebページでよく解説されているのでここでは割愛する.

 

2022年3月12日,雪がなくなった頃を見計らって北陸を旅した時に立ち寄った.

 

JR富山駅から路面電車で4駅,その名もずばりの桜橋停留所で下車.

停留所から北を向いて.橋長の割に幅が広いのであまり橋っぽくないが,桜橋の橋上の景である.複線の軌道と2車線の道路,そして両側に歩道を載せることのできる大きな幅員と堅牢性が,これまで本橋が保存されてきた大きな理由のひとつであろう.

 

親柱 (と言うほど「柱」っぽくはないが).御影石製だが戦後の作だそうだ.確かに「昭和十年竣功」の銘板は戦後らしく左書きである.ちなみにこの後見に行った (旧) 安野屋橋も同じ仕様になっていた.

 

橋の手前を右へ折れて観察.

桜橋,昭和10年 (1935) 竣工,近代土木遺産Cランク,国登録有形文化財

 

両端を支承が支える2ヒンジアーチ.アーチリブはソリッド型.

 

橋台は切石布積み.時代を考えると中身はRCで石張りだけかもしれない.いずれにしても立派なもの.土木学会の「日本の近代土木遺産」(pp. 152-153) では

切石布積の橋台に「都市の顔」の風格

と評されている.

 

高欄.四角の開口部に装飾的なグリルが入る.これも戦後の作だそうだ.

 

いったんわたって対岸へ.

 

こちらの親柱には「櫻橋」.

 

北東側からみる桜橋.

 

階段が整備されているので労せず川べりまで降りられた.このまま橋の直前まで接近できる.

 

近景.ものすごい数打たれたリベットが美しい.やはり鉄橋はこうであってほしい.

 

アーチリブに製造銘板が残っていた!この都市部にあって,よく戦中の金属回収から逃れたものだ.「昭和九年三月 富山市 佐藤工業株式會社鐡工部」.佐藤工業文久2年創業の老舗土木業者である.

 

桁裏を覗く.8本もの主桁 (アーチリブ) が並ぶ圧巻の景.

 

橋上に戻り,道路を横断して北西側へ.

ちょうど路面電車がやってきた.竣工から90年近く経った今も,ひっきりなしに往来する自動車と路面電車の両方をびくともせずに支えていることは特筆に値する.

 

親柱には「松川」.

 

北西側からみる桜橋.東側と同じ見た目だが,それは戦後の自動車社会にあって,拡幅されたりすることなく供用されてきたことを意味している.

 

こちらも切石布積みの橋台.

 

対岸へ.

南西側の親柱には「さくらばし」.

 

南西側からみる桜橋.

 

近くに解説板.

 

こちらは護岸に降りる通路が整備されていなかった.斜面を伝って普通に降りられたが,登るときにぬかるみに足を突っ込んでしまい,靴からズボンのすそまで真っ黒になってしまった.おすすめはできない.

 

下流側と同じ銘板が残っていた.これも竣工当時から拡幅を受けていないことの証である.

 

上流側には何らかの排水路があり,水が勢いよく松川に流れ落ちていた.

RC製の暗渠だが,簡素ながらアーチ環の装飾が施されていて好ましい.どこからの水路だろう?

 

最後に,少し離れた位置からみる桜橋.