交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

堂島大橋 (2021. 6. 3.)

大阪市中心部に架けられてから90年以上,丁寧に大切に維持されてきた橋を訪れた.

 

浪華八百八橋という言葉があるように,大阪市には,数え切れないほど多数の橋が架かっている.その中には大正期から戦前に架設され,適切な補修が継続された結果,今なお現役で活躍している橋も多い.それらはもちろん土木史の観点からも重要で,大阪府の近代土木遺産の大部分は,大阪市内の橋が占めているほどである.今回はそのうちのひとつ,昭和2年に架けられた堂島大橋を訪れた.

 

大阪市内での用事を済ませ,京阪電車中之島駅にやってきた.ここに来るのは2年ぶりだ.前回は駅前の大阪国際会議場 (グランキューブ大阪) での学会発表のためだったが,この日はそこがワクチンの大規模接種会場となっていた.

 

堂島大橋は,そのグランキューブ大阪の斜向かいに架かっている.

堂島大橋,昭和2年 (1927年) 竣工,近代土木遺産Bランク 1.優美な大型のアーチで路面を吊り上げる下路アーチ橋である.

 

前回来たときにも,堂島大橋の姿は目にしていた.しかしその当時,2017年 (平成29年) から3年間に及ぶ工事の真っ最中で,橋の上は多数の重機や作業員に埋め尽くされていたほかは,ほとんど印象に残っていない.その工事の内容が,橋台上の橋詰広場の一角に記されていた.

やはり素晴らしいのは,アーチと橋台という最も目立つ部材をそのまま再利用したということだ.またここには記されていないが,地盤沈下によって支間が広がり,アーチ部材にはたらく付加応力が懸念されたため,支承となるピンの更新も実施されたそうだ 2.現代であればアーチを用いずとも架けられる橋を,その優美な外観を損なわずに末永く供用できるように補修したことは称賛に値する.これら一連の事業は,「堂島大橋の長寿命化対策」として令和2年 (2020年) の土木学会田中賞を受賞している 2, 3

 

また,上の写真の解説や「日本の近代土木遺産1 が指摘するように,本橋は下路アーチ橋のなかでも,非タイドの2ヒンジアーチと呼ばれるタイプのもので,現存する中では唯一無二の構造だそうだ.

アーチ部材の根元をみると,ピンで路面と接合されているのみで,アーチの両端を繋ぐ部材はない.路面を突き抜けて橋桁自体を持ち上げているということもない.この構造が「非タイド」のアーチだと思う.が,素人ゆえに間違っているかもしれないので,詳しい方はぜひご教授願います.

 

さて,そのアーチ部材を見てみると,

時代を考えると当然のことだが,やはり恐ろしい数のリベットで鋼材同士が接合されている.ボルトにはない点描のような質感が好ましい.

 

本橋のもうひとつの特徴は,補修に際しても保存された橋台にある.

巨大なラーメン橋台である.ラーメン構造というのは,橋桁と橋台・橋脚を剛結した構造のことで,現代において新設されるコンクリート橋では主流となっている.本橋の場合,残念ながら橋台と橋桁の接合部を直接見ることはかなわない (船からなら見えるかもしれない) が,昭和2年という時期を考えると,おそらく最先端の技術だったものと思われる.

 

橋台の下には,

要石風の意匠を伴う,アーチ型の開口部.

 

橋台は左右に張り出すような形になっており,その設計も興味深い.まず目を引くのは,

張り出しの角に建てられた,御影石張りの大きな塔.特に2枚目で真っ黒に煤けているのは,経年劣化というよりも,戦時中の空襲によるものだそうだ.

 

その塔には,何かを掲げていたような跡が残っている.

これについても現地の解説が詳しく,

ブロンズメタルがあったが,戦時中に貴重な金属として供出されたという.復元すべく情報提供が求められていたものの,詳細な意匠までは判明しておらず,現在は何も掲げられていない.しかし,適当な絵柄のものを掲げたりしていないのは素晴らしい.

 

また,その足元の噴水のような飾りも面白い.ここには現在,

こういった展示がなされている.

 

さらにその横には,

常夜灯風の装飾.

 

そして忘れてはいけない親柱には,

昭和初期らしい銘板に「堂島大橋」「どうしまおほはし」と刻まれている.写真は東側だが,西側も同様であった.また,北東側の親柱側面には,

「昭和二年九月改築」の文字が直接刻まれていた.

 

最後に,西側に渡ってからの振り返り.

周囲はオフィス街として,グランキューブも含めて高層ビルが立ち並んでおり,架橋当初の昭和2年とはまるで違う光景と思われる.その中にあって,堂島大橋の優美かつ存在感のある姿を今でも拝むことができる.橋の設計が優れていたことは言うまでもないが,この橋を大切に丁寧に維持してきた道路管理者の仕事にも,敬意を表したい.

参考文献

  1. 土木学会土木史研究委員会・編 (2005) "日本の近代土木遺産―現存する重要な土木構造物2800選―" pp. 184-185,土木学会.
  2. 鋼構造出版 (2021) "土木学会 2020年度土木学会賞発表 「田中賞」作品部門は別埜谷橋、新阿蘇大橋などが受賞|道路構造物ジャーナルNET" 2021年7月15日閲覧.
  3. 土木学会 (2021) "公益社団法人 土木学会賞 田中賞受賞一覧" 2021年7月15日閲覧.