交通遺産をめぐる

関西を中心に隧道,橋梁,廃道などの交通遺産を探索しています.各物件の場所は,トップページのレポートマップをご参照ください.

澱川橋梁 (2021. 5. 22.)

京都駅から奈良に向かって南下する近鉄京都線は,京都市伏見区宇治川と交差する.そこに戦前に架けられ,現在に至るまで単純トラス橋として国内最長の支間距離を誇る,見事な橋梁を訪れた.

目次

本編

京都府南部に住んでいる私は,昔から日常的に近鉄京都線を利用してきた.今回レポートする橋梁も,幾度となく通過している.しかし交通遺産をめぐる趣味を始めるまで,この橋の素晴らしさを知ることはなかった.

 

いつもは素通りする桃山御陵前駅で降り,古くからありそうな道を南に進む.住宅街を抜け,京阪電車の踏切を越えて宇治川 (淀川) の堤防に出ると,すぐにその姿が目に入った.

近鉄京都線・澱川橋梁.昭和3年 (1928年) 竣工,近代土木遺産Aランク 1,国登録有形文化財 2.164mという距離を,間に橋脚を建てることなく,ワンスパンで渡している.建設当時は河原に陸軍の演習場があり,それを支障しないようにとの意図だったそうだ 2

 

接近すると,

恐ろしい数のリベットである.古い鉄橋は皆リベット接合だが,これだけ密集していると壮観である.リベットは橋全体で73,094本も打たれているそうだ 3.ボルトにはない緩やかな突起の質感がたまらない.

 

電車はひっきりなしに通過する 

戦前と比べると車両は大型化し,編成も長くなり,また運行頻度も格段に増えているはずだ.にもかかわらず,ほぼ竣工当時の姿で現役を貫いているのは,先見の明としか言いようがない.

 

対岸にも回ってみた.

「支間一六四米五」の掲示が誇らしい.

 

こちらは水際に近いので,橋脚を置かずワンスパンで渡していることがよくわかる.

圧倒的スケールである.

 

近鉄特急がやってきた.

深緑の本橋には,近鉄特急のオレンジ色がよく似合うように思う.

 

これにて本橋の探索を終えた.電車から何度も見たことのある橋梁だが,色々な意味で視点が変わることで,新たな魅力を見つけることができた.

おまけ: 平戸樋門

対岸に渡るために迂回している途中,なにやら鉄道の架線柱のようなトラス構造が目についた.

樋門であった.川の堤防では珍しいものではない.

 

そのまま通り過ぎそうになったが,何となく足元が気になった.堤防の斜面を下って川側に回り込んで見ると,

なんと煉瓦である.驚いた.上部構造の質感や銘板記載の時期よりも明らかに古いものなので,上部構造は後年の改修だろう.

 

近付いてみると,単なる煉瓦積みというだけでなく,非常に装飾的であることがわかる.

川に向かって掲げられた扁額には,綺麗な書体で「平戸樋門」.普段は隧道の扁額ばかり見ているが,こういう設備に,それも川の方に向かって掲げられているとは知らなかった.そして両脇の柱 (ピラスターと呼んでいいのだろうか?) には,段違いに重ねた隅石 (コンクリート?) で凸凹模様を施し,頭頂部にはデンティルという統一感のある装飾が素晴らしい.

 

川側にせり出した部分を見ると,

チェーンが備えてある.船の係留に使ったりする (した) のだろうか?

 

後ほど調べてみると,2006年に近代土木遺産Cランクに指定されていた 4.その記述を見てみると,

平戸樋門(平戸閘門)| ひらど | 京都市伏見区)| 平戸川~宇治川 | RC(煉瓦張)樋門,引上戸(鋼)| S3.64m(1門)| 大正15 | C | 樋門、兼、閘門(小舟)

思った以上に面白い物件であることがわかる.まず,竣工年は大正15年 (1926年) で,澱川橋梁よりも古い.大正末期という時代は鉄筋コンクリートが使われ始めた頃だから,当時最新の技術を使いつつ,装飾のために煉瓦を用いたということだろう.そして「樋門」かつ「閘門」だという.閘門とは,水位の異なる川や水路の間で,船を行き来させるための設備である.考えてみると,ここ伏見の地は,伏水と書かれることがあるように,かつて水運の拠点として栄えた.樋門の下部という堤防からは見えにくい部分に,これほどの凝った装飾が施されたのは,船からの見え方を意識したものに違いない.

 

まったく予期していなかったが,素晴らしいものを見つけることができた.

参考文献

  1. 土木学会土木史研究委員会・編 (2005) "日本の近代土木遺産―現存する重要な土木構造物2800選―" pp. 178-179,土木学会.
  2. 文化庁 (2000) "近鉄澱川橋梁 - 国指定文化財等データベース" 2021年6月21日閲覧.
  3. 鋼構造出版 (2018) "澱川橋梁及び三栖閘門などの土木遺産を見学|道路構造物ジャーナルNET" 2021年6月21日閲覧.
  4. 土木学会 (2008) "京都府 - 日本の近代土木遺産(改訂版)" 2021年6月21日閲覧.