前回に続いて廃道ネタであるが,今回はダムの建設によって水没した旧道という,これまた異色の,しかし美しい道路をレポートする.
目次
導入
旅の直後の日常は,普段の5倍くらいつまらないと思う.旅行中は見るもの全てが新鮮であったのに,翌日からは見慣れた電車に乗っていつもの仕事場に行き,旅に出る前の私を呪いながら溜まった仕事を片付ける.前日までとの落差に旅の疲れも加わり,仕事は遅々として進まない.そうして鬱々として一日を終える.これが私のよくあるパターンである.
愛媛から帰ってこの状態に陥った私は,気分転換のため,わずか3日後の土曜日に再び出かけたのであった.もちろん遠出するほどの余裕はないので,地元の近畿圏内である.こういう時のために,私の「行きたい場所リスト」には近場のスポットも多数登録してあるのだ.
前置きが長くなってしまったが,今回訪問したのは滋賀県日野町である.鈴鹿スカイラインと呼ばれる山岳道路で三重県から滋賀県に入った国道477号は,農業用水の供給のために造られたダムをいくつか通過する.表題にある「蔵王ダム」もそのうちの一つであるが,なんとその建設にあたって国道が付け替えられ,旧道は水没したという.ダムに沈む廃道,魅力的な響きである.ぜひ見てみたいと思った.
なお,今回の探索では「くるまみち」さまの記事 1 を大いに参考にさせていただいた.厚く御礼申し上げます.
本編
国道477号は,百井峠~百井別れ~花背峠のような酷道区間を持つものの,今回探索したエリアでは片側一車線が確保されており,アクセスに難はない.現道のすぐ脇のゲートが目印である.
どうも事前に予習していた姿と違う.明らかに塗り直しがされているし,「立ち入りを禁ずる」という看板も真新しい (「くるまみち」さまの記事でもその他の記事でも落書きがあったはずなのだが…).嫌な予感がした.
ともかく先へ進む.ガードレールのある小さな橋を越えたところで目に入った光景がこちらである.
ドキッとした.踏み荒らされた路面,切り出された大量の丸太に重機.明らかに最近,林業の仕事が行われた跡であった.この日は無人だったが,もし作業中であったりでもしたら,最悪の事態であった.
その先が,目当ての旧国道と,ダムの周囲を回っていく道 (旧・工事用道路?) の分岐であった.
ガードレールの右側が旧国道である.左側の道も使われていないようで随分荒れていた.しかし,どうも予習した姿と違うような…?
旧国道に入る.
派手に崩壊している.もともとの道幅の1/3くらいしか残っていないのではないか?
さらに先へ進むと,これぞ「廃道」という景色であった.
ガードレールの内側,本来は道路である部分に,我が物顔で居座る木々.もはやここが道路ではないことを物語っていた.しかし,木が生えているということは,ここまでは滅多に浸水しないということだろう.
草木の生い茂る地帯を抜けると,呆気なく探索の終わりが見えてしまった.
退廃的な美しさである.
しかしながら,思っていたよりもかなり早い「終点」であった.どうやらこの日は,上述の記事を初めとする過去の訪問記録――もっと先の,現道が橋梁でダムをやり過ごすところまで進んでおられた――よりも水位が高かったようだ.あるはずの廃橋の姿も見当たらなかったが,きっと水の中だったのだろう.
右手側を見ると,ここもかなり崩れていた.
400番台とはいえ元国道の路面がここまで崩れているということは,かなり長い時間水に浸かっていたのであろう.先ほどの分岐の時点では白色だったガードレールが無惨に錆びてしまっていることも,それを物語っている.つまり,この日が特別に水位が高かったわけではないのだと思う.
さすがにダムの中には入れないので,ギリギリまで進んで引き返した.
色々予想外の展開が多い探索ではあったが,美しい廃景を目に焼き付けることができた.いつかまた,水位の低い時に再訪したい.日照りが続いた夏の日とかが良いのだろうか?
参考文献
- よとと (刊行年不明) "旧酷道477号線(蔵王ダム水没道) by.くるまみち" 2021年5月8日閲覧.