交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

国道303号 水坂トンネル〜寒風トンネル旧道【中編】 (2021. 6. 10.)

前編より続く.雑誌でも取り上げられた国道303号寒風トンネル旧道の,今の姿をレポートする.

目次

寒風トンネル

本題の旧道に入る前に,まずは現道について.

国道303号,寒風トンネル,東側 (今津側) 坑門.古の鯖街道に由来する道路ということで,魚のレリーフが掲げれている.水生生物が好きな私には嬉しい装飾だ.

 

向かって左手には銘板があった.

1980年1月竣工.道路自体の開通もその頃であろう.従ってこれから探索する道は,放棄されてから40年近くが経過していると予想される.

廃道の入口

左を向くと,

荒れ放題の道の姿と,

先人の記録にも必ず登場する,県による廃道宣言.「廃」がやまいだれになっているのも強烈な印象である.

 

その先では,

下草に覆われ,幹線国道であった当時の面影は失われていた.「廃道をゆく 3」1 では「ちょうど食べごろ」と紹介されていたこの旧道,それから10年が経過し,旬を過ぎてしまったかと心配になった.

陥没した幹線国道

しかしそれは杞憂であった.少し進むと,

アスファルトが顔を出した.センターラインも残っている.この風景が見たくてやって来たのだ.

 

そして上の写真でも見えているが,ほどなくして,

大陥没である.これは路肩の崩落どころではない.黄色のセンターラインのある幹線道路が,1/3ほどの幅員を残して流出していた.崩壊の跡からは下草が芽生えており,陥没が最近起こったものではないことが推察された.

 

わずかに残った路面を歩いて先に進むと,右側の法面が崩れていた.

とはいえ路盤はしっかり残っており,歩くことに支障はなかった.

岩盤崩落

上の写真の崩落を越えると,またセンターラインが顔を出した.

良い廃景だ.大きな落石はあるが,このくらいは既に見慣れてしまった.

 

しかしその先には,想像を絶する風景があった.上の写真には,行く手を阻むような場違いなガードレールが見えているが,そこには,

大規模な崩落.落石防止ネットの抵抗も虚しく,右側の岩盤が崩れ,2mほど積み重なっていた.

 

ガードレールがあるということは,この崩落の直前までは車両の進入を許していた時期があったのか,それとも物好きが車両で進入した際に突っ込まないようにとの配慮なのか.いずれにしても,コンクリートの堅牢そうな土台までもが歪んでいることから,相当の規模の崩落が,封鎖後も散発的に発生していることが推察された.

 

幸い,左側に人が歩く余地が残っていた.そこから崩落を見上げる.

恐ろしい光景である.探索中に大崩落が起きて埋もれてしまう可能性は万に一つもないと思っているが,長居したい場所ではない.

退却

さらに進むと,現れたのは,

わかりにくいかもしれないが,これまた大崩落である.しかも今度は,相当な距離に渡って続いている.

 

これは「廃道をゆく 3」1 で「この先を越えるにはリスクが伴う」と評されていた区間に違いない.とりあえず近寄ってはみたものの,

これは,見た目以上に険しい区間だ.法面の崩壊と路肩の崩落が一体となり,もはやどこが路盤かもわからない状態となっている.高巻きを試みたが,積み重なった崩落はサラサラと滑りやすく,手がかり足がかりに乏しい.数分間逡巡したが,諦めていったん撤退し,寒風トンネルで反対側に回り込むことにした.

 

以下,来た道を戻って現道に復帰するまでの光景.

次回予告

完結編となる次回では,寒風トンネル旧道の西側をレポートする.主に焦点を当てるのは,

この廃橋である.

 

後編に続く.

参考文献

  1. のがなあつし (2011) "国道303号旧道 寒風トンネル" 廃道をゆく 3,pp. 74-75,イカロス出版