交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

関西本線 (亀山〜加茂) の鉄道遺産 第2次探索【後編】― 下の川橋梁・柳生街道架道橋ほか ― (2021. 5. 25.)

前編より続く.板屋川橋梁などを訪問した後は,駅に戻ってから一気に京都府笠置町まで移して,探索を続行した.

目次

加太駅

加太地区の魅力的な橋梁群を探索した後,加太駅に戻った.先ほど列車でこの駅に降りたときは,すぐにバスに乗り換えてしまったが,改めて観察すると良い駅である.

いまは無人駅だが,立派な木造駅舎はさすがの関西「本線」である.この駅舎は昭和11年 (1926年) 竣工 1 とのことで,まもなく100年となるが,よく手入れされて綺麗な状態を保っている.

 

待合室は,

板張りの雰囲気がたまらない.老朽化によって一度は解体撤去も検討されたこの駅舎は,2019年に亀山市がJRから譲り受けた 1 ことで,こうして現役で活躍し続けている.

 

ホームを見てみると,

石積みの低いホームの上に,コンクリートブロックが積まれている.石積み部分は明治期の駅開業当初のものであろう.写真左手の柱の下は,構内踏切の跡と思われる.現在はより安全な跨線橋に取って代わられている.小規模ながらまるで地層で,駅の歴史を物語っている.

 

ホーム上には,こんな展示があった.

地元の人々や自治体が,ここまで熱心に保存・整備しているのも珍しいと思う.素晴らしい.

 

駅の西側には,

遮断機や警報機のない小さな踏切の先に寺院があった.雰囲気としては以前訪れた西濃鉄道市橋線が通る石引神社に似ている.

下の川橋梁

加茂行きの列車に揺られること,1時間弱.終点のひとつ手前の笠置駅で下車した.時刻は18時になろうとしているが,この時期だからまだ明るい.夏は藪が濃くなるし,熱中症の危険もあるから基本的に探索に不向きな季節だが,陽が長いことだけは優れている.

 

最初に目指すのは,駅の東側すぐのところに架かる橋梁だ.予習していた通り,駅前の通りから「河川敷公園・キャンプ場」の看板に従って脇道に入る.「感染症拡大防止のため閉鎖中」と書いてあるが,キャンプをするわけではないので問題ない.気にせずに進んで行くと,

な,なんだと…!?封鎖…!?

 

近付いてみると,看板の裏には人が通れるスペースが空けてあった.関係者の出入りはあるのだろう.既に夕方で,周囲に人気はない.別にキャンプ場に立ち入るわけではないし,もちろんキャンプなどしない.というわけで,失礼させていただいた.

 

バリケードを過ぎてすぐ,目指す橋が見えた.

関西本線・下の川橋梁,明治30年 (1897年) 開通,近代土木遺産Cランク 2

 

本橋の一番の特徴は,

いわゆるトレッスル橋だ.鋼材を末広がりに組んで造られた橋脚を持つ構造で,2010年に架け替えられた (旧) 餘部鉄橋が有名である.トレッスル橋は国内では数えるほどしか現存しない上に,本橋はその中で最古のものとされている 3, 4.小規模ながら歴史的には非常に重要な橋梁と思うのだが,これがなぜ近代土木遺産Bランク以上でないのかが腑に落ちない.

 

違う角度から.

明治30年の開業から120年以上,この華奢な姿で橋桁と列車を支え続けている.

 

笠置駅側の橋台は,

前編で巡った橋梁群とよく似た,石積みの基礎に煉瓦積み+隅石という構造だ.

 

視点を変えて,並行する笠置街道の大手橋 (鈴鹿隧道の記事のおまけで言及した) からの遠望を.

周囲の景観に溶け込んでいて素晴らしい.明治期の姿を留めたまま,末永く現役を貫いてほしいものだ.

柳生街道架道橋

下の川橋梁から東に100mほどのところで,線路は府道と交差する.そこに架かるのが,本節でレポートする柳生街道架道橋 4 だ.

 

実はここ,初めて訪れるわけではない.線路の下をくぐる柳生街道 (京都府道・奈良県道4号) は,杉林の中を山越えする雰囲気の良い峠道で,何度もドライブで通ったことがある.また笠置駅前を西に進み,隠れた険道である奈良県道173号を走ったこともある.しかし例によってこの趣味を始める前のことだから,橋の構造などまったく意識していなかったし,何より道幅が狭いから,運転以外のことに気を向ける余裕はなかった.

 

いつもは車で素通りする笠置の街並みも,歩いてみると印象が違う.

いかにも旧街道といった趣がある.ここは剣豪の里として知られる柳生を通って奈良町に至る柳生街道と,伊賀上野から笠置を通って奈良に至る笠置街道が重なるところである.

 

進んで行くと,線路が見えてきた.

遠くから見ると,単に幅員の狭い道路にしか見えないかもしれない.むしろ,曲がりくねった道路がいかにも古色を帯びており,私などはそちらに注意が向いてしまう.

 

しかし,近付いてみると,

総切石造りの立派な橋台である.こぶ出しというのだろうか,粗削りの切石を,煉瓦で言うところのフランス積みにしている.同じ日に訪れた板屋川橋梁屋渕川橋梁の橋脚下部と同じ構造である.そして足元には帯石というのだろうか,一回りせり出した段を作って変化をつけている.

 

反対側にも回ってみた.

本当に美しい.鉄道車両1両分の長さもない小さな橋には不釣り合いとも思えるほど,どっしりとした重厚な姿が素晴らしい.

 

暫し鑑賞した後,さらに線路沿いを歩いてみた.布目川発電所近くの,布目川橋梁まで行ければ良いなと思っていた.しかし,日の長い時期とはいえさすがに暗くなってきたので,途中で引き返した.

 

第1次探索と今回とで色々巡ってきたが,関西本線には他にもまだまだ訪れたい鉄道遺産がある.今後も折を見て探索するつもりだ.

参考文献

  1. 伊勢新聞 (2019) "JR西日本から加太駅舎無償譲渡 地域活性化拠点に 亀山市 - 伊勢新聞" 2021年7月4日閲覧.
  2. 土木学会土木史研究委員会・編 (2005) "日本の近代土木遺産―現存する重要な土木構造物2800選―" pp. 182-183,土木学会.
  3. 兵庫県県土整備部県土企画局交通政策課 (2006) "余部鉄橋利活用検討会 第1回会議資料" 2021年7月4日閲覧.
  4. 笠置町役場商工観光課 (2017) "かさぎ探訪ナビ No.7、No.8、No.9、No.10 JR鉄道4橋 | 笠置町" 2021年7月4日閲覧.