交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

紀勢本線 (旧) 湯浅駅舎 (2022. 2. 18. / 2022. 9. 26.)

昭和初期から90年にわたって利用された木造駅舎.観光活用のための工事進行中!

 

醤油発祥の地として知られる和歌山県湯浅町の代表駅,JR紀勢本線・湯浅駅は,昭和2年 (1927) 8月14日,鉄道省紀勢西線の延伸に合わせて開業した 1.当時の駅名は「紀伊湯浅」.旧国名の「紀伊」が付いているのは,既にあった有田鉄道の湯浅駅との混同を避けるためと思われる (有田鉄道の方ももちろん紀伊国ではあるのだが).有田鉄道の廃止後,駅名が「湯浅」に改められている.

 

古写真に見る紀伊湯浅駅舎.「湯浅町歴史的風致維持向上計画」2 より引用.

 

湯浅駅の本屋は,財産標によると昭和3年 (1928) 3月の建造で,戦争や高度成長期を経て,90年にわたって利用された.平成31年 (2019) 12月,新駅舎の設置に伴って供用停止となった 3 が,その後も閉鎖された状態で,新駅舎の隣に遺されている.

 

令和4年 (2022),2度にわたって現地を訪ねた.

探訪 (2022. 2. 18.)

和歌山駅から紀勢本線で12駅,湯浅駅に降りたった.平日の午後だっため,構内は学校帰りの高校生で溢れていた.跨線橋を渡り,真新しい橋上駅舎から外へ.

 

平成31年 (2019) 供用開始の新駅舎.やたら大きく見えるが,駅の機能は右側の小さな建物だけで,左の大きな方は観光交流センターや町立図書館が入った複合施設となっている.

 

右に目をやると,どっしりした旧駅舎がすぐそこに鎮座している.

 

本題の (旧) 湯浅駅舎.町の中心駅らしい,風格ある大きな駅舎である.

 

塞がれた入口の左上に「昭和3年3月」と記した財産標が残る.駅の開業は昭和2年 (1927) だが,翌3年3月までは仮駅舎のようなものがあったのだろうか.もっとも誤植の可能性もあるけども.いずれにしても,建設から90年にわたって利用され続けたことは知れる.

 

妻面.半切妻屋根が洒落ている.

 

古色ある木造の庇もそのまま残っている.

 

駅舎正面の車寄せ.古写真と見比べるまでもないが,ここは後年に改築されている.「JR湯浅駅」の文字を貼り付けていた跡が鮮明に残っている.現役時代のものと思われる日本遺産の看板もそのままだ.湯浅が日本遺産に認定されたのは平成29年 (2017) 4月 4,駅舎移転の2年前である.

 

車寄せの内側.観光案内がそのまま残っているのが生々しい.

 

もう一度新駅舎から駅構内へ.旧駅舎をホーム側から見る.

 

改札口は塞がれているが,すぐ近くまで接近できた.駅舎が新しくなってからも,旧駅舎の隣のトイレが引き続き使われていたからだ.

 

黒々とした柱が木製の庇を支える.

 

旧駅舎から通路を挟んだ位置に,昭和55年 (1980) の「安全の誓い」なる碑を見つけた.付近で何か事故でもあったのかと思って調べたが,よくわからず.

 

ホームは切石積みの美しい造り.当駅を含む紀勢本線 (西線) が和歌山から順次開業したことを思うと,泉州あたりの石を列車で運んできたのかもしれない.

 

この時点では駅舎は単に放置されているという趣だった.移転からの時間が短いのでさほど荒れてはいなかったが,そうなる前に解体されるかもしれないな,と思っていた.

再訪 (2022. 9. 26.)

7ヶ月が過ぎたこの日,広橋のついでに再訪してみた.

 

よしよし,前と変わっていないな?……いや,右に何か看板がある?

 

「旧湯浅駅を なおしています」「旧国鉄紀伊湯淺驛再生利活用工事」!どうやら旧駅舎は「再生利活用」のために保存されることになったようだ.びっくり.

 

駅前のタクシー営業所が現場事務所になっている.

 

この工事について,「広報ゆあさ」本年9月号の「町長メッセージ」5 に,

 現在、湯浅駅旧駅舎を地域住民の憩いの場や観光客が気軽に立ち寄れる施設となるよう整備を進めているところです。昭和の開業当初の姿にできる限り復元するとともに、ホームの一部を活用し、電車を見ながら休憩できるスペースを設けることで皆さんに親しんでもらえる施設にしたいと考えております。

と記されていた.素晴らしいことと思う.特に「昭和の開業当初の姿に復元」というのが良い.そういえば現地の看板には「再生利活用工事」とか「再生工事」と書かれていた.おそらくその「再生」に,車寄せ部分の復元は含まれるだろう.後は窓のアルミサッシを木枠に戻すとか?内装にも手が加わるかもしれない.

 

看板には工事期間は来年3月末までと記されていた.その通りに進むかはわからないが,完工したらまた見に来てみたいと思う.

参考文献

  1. 湯浅町誌編纂委員会・編 (1967) "湯浅町誌" pp. 539-541,湯浅町
  2. 湯浅町 (2016) "湯浅町歴史的風致維持向上計画" p. 31,湯浅町,2022年10月10日閲覧.
  3. 一般社団法人和歌山県建築士会 (2021) "『湯浅えき蔵』-YUASA EKIKURA-" 2022年10月10日閲覧.
  4. 湯浅町 (2019) "「最初の一滴」醤油醸造の発祥の地 紀州湯浅 - 湯浅町公式ホームページ" 2022年10月10日閲覧.
  5. 湯浅町広報委員会・編 (2022) "広報ゆあさ" 2022年9月号,p. 18,湯浅町役場,2022年10月10日閲覧.