交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

岡山市の金光橋 (2021. 9. 21.)

西大寺市,西川に架かる装飾的なRC橋.

 

金光橋

2021年9月21日,かねてから気になっていた千年橋を見に行く途中で見つけた橋.

 

JR赤穂線西大寺駅から県道37号を南下すると,700mほどで鴨越用水 (西川) を西川橋で渡る.そこでふと上流側に目をやると,

 

 

県道のすぐ脇に,なにやら怪しげな橋らしきものが見えた.なんだあれは?

 

場所はここ.

 

県道を横断して接近.

やはり橋梁だ.西川を1スパンで跨ぐシンプルな橋だが,大きな親柱,曲線を多用した優美な高欄など,驚くほど装飾に富んでいる.これは古そうだ.

 

南詰から正対.

 

背の高い親柱に洋風の照明が載る.今でも夜になると点灯するのだろうか?

 

親柱の題額には「金光橋」「こんくわうはし」.これで橋名が確定した!このあたりで「金光」と言えば金光教のことに違いない.近くに金光教の教会でもあったのだろう.

 

高欄を路面側から.縦長の窓を連ねた下に横長の窓を配する意匠.

 

対岸の親柱の額も「金光橋」「こんくわうはし」.したがって現地では,竣工時期についての情報は得られなかった.

 

上流側.こちらも美しいお姿だ.中央奥の白い車が走っているのは県道の西川橋で昭和42年 (1967) 竣工,4車線の両側に歩道を備えた大きな橋である.一応金光橋に代わる新橋ということになるが,あちらは昭和37年 (1962) の赤穂線の開業に合わせて整備された幹線道路なので,それ以前から地区の生活道路であった金光橋とは少々性格が違うだろう.

 

後日「岡山県の近代化遺産」1 を見てみると,金光橋の竣工は昭和5年 (1930) と記されていた.典拠は不明だが,見た目の印象とは矛盾しない.

 

また,同書には

現在はアルミ製欄干に吹付けに改修。

とも記されている.西川に架かる橋の多くは平成6年 (1994) 頃に改築されているが,本橋も例外ではなかったらしい.もう少し調べてみると,岡山市立岡山シティミュージアムによる県内の様々な橋を紹介するサイト「橋 博物館」2 に,改修前の写真が紹介されていた.引用はしにくいのでリンク先を見ていただければと思うが,その写真を見てみると,高欄は現在と違って中央に中柱を有する4パネル構成で,親柱ももっと装飾が凝っていた.

 

というわけで,現地で「古そうだ」と思って見ていた金光橋の意匠は,実はさほど古いものではないことがわかった.ただし,細長い窓と扁平なアーチ窓を重ねた高欄の意匠はよく再現されているし,親柱の照明も (灯具自体は交換されているが) 維持されている.高欄や親柱が,現代の構造令に合わせるという名目で,無機質な量産品に置き換えられてしまった橋は多数あるので,それらに比べると良心的な改修だったと思う.少なくとも,一見の旅行者に,魅力的な雰囲気が感じられたのは事実である.

補遺

金光橋や千年橋の他にも,西川には色々な橋が架かっている.それらの一部をここで簡単に報告しておく.

昭和橋

金光橋から60m下流,県道と集落を結んでいる橋.場所はここ昭和3年 (1928) 竣工.

 

この橋も平成期に改築されている.親柱の照明はその時に新設されたものらしく,古写真 2 には写っていない.

 

親柱.「昭和三年六月架設」の題額が残されているのは嬉しい.

(旧) 荒鍬橋親柱

千年橋から250mほど下流に架かる,県道28号岡山牛窓線の橋.場所はここ.橋そのものは昭和57年 (1982) にボックスカルバートに架換えられているが,旧橋の親柱が保存されている.

 

高欄の外側に旧橋の親柱が置かれている.

 

円柱形の瀟洒な親柱に「荒鍫橋」「あらくわはし」「昭和十一年八月架設」の額を留める.

神武橋

荒鍬橋から250mほど下流に架かる橋.場所はここ昭和11年 (1936) 竣工の2径間RC桁橋 (西側の径間は床版桁,東側の径間はT桁).

西川に架かる橋の中では,千年橋と同じくらいよく旧状を留めていると思われる.高欄の窓を埋める鋳物グリルが洒落ている.

 

このあたりでは元々の地形のためか,道路が水路より高い位置を通っている.したがって橋を下から観察することも可能だった.

 

親柱には「神武橋」「じんむばし」「昭和十一年八月竣成」.

 

幅員は比較的大きく,2車線と両側の路側帯が載る.

参考文献

  1. 岡山県教育庁文化財課・編 (2005) "岡山県の近代化遺産:岡山県近代化遺産総合調査報告書" p. 293,岡山県教育委員会
  2. 岡山シティミュージアム "橋 博物館" 2022年9月29日閲覧.