交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

近鉄吉野線の吉野川橋梁 (2021. 5. 4.)

奈良県の橋をめぐる旅,完結編.この日最後に訪れたのは,吉野町吉野川を跨ぐ,近鉄電車の巨大なトラス橋である.

 

本橋の存在は,実は何年も前から知っていた.吉野・大峯方面にドライブに行く時,だいたいその下を潜るためだ.その度に「大きな橋だなあ」と感心していたのだが,車を止められるような場所はないため,いつもスルーしていた.しかし交通遺産をめぐる趣味を始めてから本橋について調べてみると,歴史ある近代土木遺産であることがわかったので,改めてじっくりと訪問することにした.

 

この日私は,本橋の前に端駈橋下田橋五新線遺構を訪れていた.それらの探索を終えて五条駅に戻った私は,JR和歌山線から近鉄吉野線に乗り継ぎ,大和上市駅に到着した.何度も来たことのあるエリアだが,自分で運転するのと鉄道に揺られて行くのとでは印象が違う.急なカーブを描きながらゆっくりと,時に石積みの古い隧道をくぐりながら進むのは趣があって素晴らしい.「薬水」「福神」「六田」などの特徴的な駅名を楽しめたのも鉄道ならではであった.

 

大和上市駅で降りて,坂道をぐんぐん下ること約5分.大きな橋脚が現れた.

立派な切石造りである.そして単に切石を積むだけでなく,橋脚の四隅がわざわざ丸く加工されているのは興味深い.通行人の安全を考慮したのか,それとも意匠的なこだわりなのかはわからないが,いずれにしても重厚なだけでなく,柔らかな印象を受ける.

 

トラスの基部を下から.

多数の部材が複雑に絡み合う.上路橋だからもちろんトラスの内部は通行できないのだが,ジャングルジムのようで面白い.

 

道路を渡って河原に降り,トラス部分全体を眺める.

近鉄吉野線吉野川橋梁.昭和3年 (1928年) 竣工,近代土木遺産Cランク 1

 

コンピュータも移動式クレーンもなかった時代に,これほどのスケールの,そして1世紀に渡って現役であり続けるような構造物を造り上げた先人の力は凄まじい.近鉄公式のチラシ 2 に工事中の写真が載っているが,足場を組むだけでも相当の苦労だったことは想像に難くない.

 

ちょうど吉野行きの近鉄特急がやってきた.

車体のオレンジ色が映える.橋脚の足元や写真右端に豆粒のように写っている人と比べると,本橋の高さが際立つ.

 

既に日没を過ぎて暗くなっており,帰りの電車の都合もあるので,これにて探索終了とした.もっとじっくり観察したいところだが,先ほど見送った近鉄特急の折り返し便に乗るため,早足で駅に戻った.

 

近鉄吉野線には,他にも薬水拱橋などの土木遺産がある.また今度,じっくり巡りたいと思う.

おまけ

駅に戻る途中に出会った美形の猫.

私がカメラを向けるとこちらを見てくれたが,すぐに背を向けてバイク店の奥に消えていった.

参考文献

  1. 土木学会土木史研究委員会・編 (2005) "日本の近代土木遺産―現存する重要な土木構造物2800選―" pp. 184-185,土木学会.
  2. 近畿日本鉄道株式会社秘書広報部 (2012) "吉野線の歴史的建造物を巡ろう! ~吉野線開業100周年記念 近鉄社員のガイドによる歴史的建造物を巡るハイキングツアー~" 2021年6月2日閲覧.