交通遺産をめぐる

隧道,橋梁,廃道などの交通に関する土木遺産を探索し,「いま」の姿をレポートしています.レポートマップはトップページにあります.

針インターチェンジの廃ランプウェイ (2021. 2. 23.)


名阪国道,針インターチェンジ.今まで併設の道の駅に行くために何度か利用したことがあるが,そこに廃道と化した旧ランプウェイがあると知って,この度訪問してきた.


いつもは車で訪れる場所だが,駐車スペースに困りそうだったので,今回は公共交通機関で向かった.道の駅に車を止めてもよかったけれど,歩道のない道路を歩くのが嫌だった.近鉄電車で榛原まで向かい,奈良交通バスに乗り換えた.バスは国道をまっすぐ進むのかと思っていたが,旧都祁村の辺りから集落の中に分け入り,狭い道を民家の軒先を掠めながら通過していったので,なかなか楽しかった.針東口でバスを降り,道なりに5分ほど歩くと,目的地に到着した.
すごく良い雰囲気……藪に飲まれつつあるとは言え廃止前の痕跡がはっきりと残っている.大阪方面の旧ランプウェイがほぼ完全に撤去されて (道の形は少しだけ残っているが) 資材置場や防災基地になってしまっているのとは対照的.塗装が剥げてボロボロになった看板類が味わい深い.
一番手前にある標識.ツタが絡みついているのがなんとも良い.自動車専用を示す標識がこんな状態になっているのは初めて見た.初めて見たと言えば,下の「2人乗り禁止」も古い時代のものなので見たことがない (首都高には今でもあるらしいが).年代的に「建設省」にも馴染みがない.


辛うじて「Nagoya」という字が読める.


虫食いパズルのようになっている.看板には「建設省」,柱のシールには「国土交通省」とちぐはぐな感じだが,このランプウェイが廃止されたのが省庁再編から1年以内なので,わざわざ看板の表示を改めることはしなかったのだろう.一方の緑の看板は明らかに新しいものに見える.たぶん廃止の直前に設置されたのではないか.そう考えるとやや悲しげに思われる.


入口付近の看板類を堪能した後,うしろの道路の車からの視線にビビりつつ,廃道に足を踏み入れた.
だんだん廃道の雰囲気が出て来た.車線の半分は藪に飲まれているし (この藪の中にもう一つ看板があったみたいだが気付けなかった),制限速度表示や中央線も消えかかっている.もっともこのくらいの廃れ具合は林道などでは時々見かける.もちろん高速道路や自動車専用道では見かけない.だが,カーブを曲がった先はさらにすごかった.
まさに土に還りつつある状態.植物の力は恐ろしい…

まずはこの分岐の左側,本線への入口であった方に進んでみる.
ほぼ完全に藪に飲まれてしまっている.アスファルトの灰色は全く見えず,ガードレールだけが「ここが道路だ」と虚しく主張している.10mも先に進めば名阪国道の本線で,猛スピードで行き交う大量の車が見え隠れしているので,この空間が一層奇妙に感じられた.3枚目の写真の位置まで藪をかき分けて進んだが,これ以上は本線から丸見えになるので引き返した.名阪国道を走るといつもパトカーの数台くらいは見かける*1ので,あまり無茶はしないほうがいい.分岐地点まで戻って今度は右側,本線からの流出路へ.
ただ,こちらは見ての通り藪が少なく本線から丸見えなので,数歩進んだだけで引き返した.

最後に,ランプウェイ入口の脇にあった倉庫をチラッと見た.
この倉庫の正体はわからない.この場所はうしろの道路から丸見えなので,無理に侵入したり覗いたりするのは憚られた.全体的にボロボロで廃屋にも見えるが,中央のシャッターだけがやけに新しいので,案外使われているのかもしれない.この倉庫が使われている現場を見てみたい気もしたが,わざわざ祝日を狙って来訪したからかそれともいつもそうなのか,人の気配は全くなかった.もっとも,人がいたら確実に廃道への侵入を咎められるだろうが.

なんだかんだで一時間以上滞在し,相変わらず現役道路からの視線にビビりながらこの場を離れた.帰りは「奈良都祁線代替バス」を利用した.廃止された奈良市街までのバス路線・奈良都祁線の代替として,下水間というバス停までの区間奈良市が無料で運行しているもので,下水間で奈良交通バスに乗り継げば奈良市街までアクセスできるようになっている.
時間になると,正面に「奈良市」と書かれたハイエースが到着した.この車がそれらしい.随分こじんまりしたバスだが,乗客は私一人だった.内装は普通のハイエースと同じように思われた.バスに付き物の「次とまります」ボタンがない.それに「次は○○」みたいな放送もなく,運転手はただひたすら無言で車を走らせた.私は終点まで乗るからいいのだが,途中で降りる場合はどうするのだろうと思った.どうも路線バスというより送迎車に近い.
下水間には遅れることなく到着した.乗り継いだ奈良交通のバスはありふれた普通のバスだったので安心し,そこからの記憶はおぼろげである.長いトンネルを通ったような気はする.目覚めたときには見慣れた近鉄奈良駅に着くところであった.

*1:これは完全に余談だが,以前名阪国道を走った時,加速車線の途中で待ち伏せしているパトカーを見たことがある.ただでさえ短い加速車線をさらに短くするのは勘弁してほしい.休憩場所に困った大型車じゃないんだから…